山と卓球

まずは、ブログを書く前にお礼をしたい。WINGSPANのカーブラインシリーズを販売させていただき、多くの方に価値と可能性を感じてくださり大変、感謝いたします。引き続き丹念にラケット制作を行っています。また、ツイッターのDMやホームページの問い合わせフォームから直接、応援の言葉やメッセージ、ラケットに関するアドバイス等をいただいております。大変ありがたく読ませていただいております。すべてに返答が出来ておりませんが、皆様から頂いた言葉を大切に受け止め、今後のラケット制作にいかしていきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


今回のブログでは、私は「山と卓球」について書きたいと思っています。時間はさかのぼって、WINGSPANは立ち上がったものの、カーブラインシリーズの発売に至っていない頃の話です。私はそのころラケットの制作工程について、迷いに迷っていた。すでに十分に販売できるレベルの完成度となっていたが、迷いというのは、制作工程を一つ増やすかどうかを迷っていた。制作工程を増やしてさらにクオリティーを上げたいと思う気持ちと、現状で問題が無いなら制作工程を増やさずスムーズにしたいという気持ちに決着がづかず、判断がつかなかったのだ。ラケット制作で迷うと、昼夜問わず常に「どうしようか」「どうしようか」と考えるものだ。

そんなタイミングで…、山登りに行くことになった。ラケットの制作工程の迷いも環境を変えて考えれば良い答えが浮かぶかもしれないと思っていた。現地に行くまでは。

「山登り」にもいろいろな山登りがある。ハイキング、トレッキングなど呼ばれるものから、難易度の高い山まで様々だ。私はハイキングやトレッキングの山登りをイメージしていたが、向かった山は、「滑落死亡事故が発生」の看板が立ち、鎖をつたいながらの登ることが求められる、とても難易度の高い山だった。

イメージ写真

鎖から手を離せば、100%滑落な狭い道を歩きながら、向かい側から人が来ないことを祈りながら進む。雨が降らないことを祈りながら進む。地震が起きないことを祈りながら進む。一心不乱に鎖をつかみながら歩く。キャップのつばの先から汗がしたたり落ちる。

実は私は登山が趣味ではない。なんといっても高所恐怖症だからだ。高いところはとにかく怖い。ただ時々、思い付きで山に登ることがあるだけだ。そしてたまたま高山という別世界に感動する。コマクサ、チングルマなどの高山植物も好きだ。そしていまだに昭和感が漂う山小屋も素敵だ。温泉が好きな私は標高の高い白馬岳蓮華温泉や八ヶ岳本沢温泉は再訪したい場所である。だけど、繰り返しになるが、登山が趣味ではない。

絶壁のふちを歩き続けて、キャップのつばの先からしたたり落ちる汗の滴の速度が速まったころ、私の頭に自分が滑落するイメージがわいてきた。そこで同行者と相談して、命を優先して道半ばで折り返すことにした。登った道を折り返すことは、危険には変わりないが、精神的な負担は軽減されるものだ。そして体力を使い果たしてゴール。

この登山でラケット制作の悩みが解決されたかというと…。

絞りだされた答えは「生きてて良かった」のみ。

平らな地面に無事に帰ってこれただけで、とにかく得難い充実感。
その時点で、ラケット制作工程の悩みはとても小さな事柄になっていた。
(ちなみに悩んでいた制作工程は工程を増やすことで解決しました。)

以上が、私の「山と卓球」の話でした。