春の新作ラケット、ウィータムの開発について

2025年の春の新作ラケットはウィータム (WEETAM CLS) は好評販売中です。今回はウィータムの開発について綴りたい。発端は、弊社の3周年記念ラケット、ダズリングストレンジャーにさかのぼる。2024年11月に販売したダズリングストレンジャーは、木材自体は創業前に購入したもので、その頃はまだ高品質の北洋材(シベリアの木材)が入手できた。世の中にはタイミングがずれると、いくらお金を出しても購入できないものもあるものだ。創業前はそんな良質な木材をその後に入手が完全に不可能になるともしれず、かなりたくさんの試作ラケットに費やした。開発者としては、ラケットの試作品を作ることは楽しい仕事なのだが、それらの今となっては極めて高級な試作品を眺めると苦笑するしかない。

話は脱線するが、北洋材が入手できなくなったころ、木材買い付け業を退職された方とお話する機会があった。その方はとても嬉しそうにシベリアの木材の大木ぶりや、シベリアの寒さがいかに良い木材を育てるかについてお話いただいた。ありがたい話なのだが、その時、私の頭の中では大滝詠一の「さらばシベリア鉄道」が流れていた。

哀しみの裏側に何があるの?
涙さえも凍りつく白い氷原
誰でも心に冬をかくしてるというけど
あなた以上ひややかな人はいない・・・

ダズリングストレンジャーはそんな創業前に購入した、木材のデッドストックの一部を使用した卓球ラケットである。ブレードは硬さと重さと低弾性を意識した製品だった。また天然貝のインレイもこのラケットが最初である。実はインレイの前には試作品で螺鈿を試していたが、本格的に漆を使った工程がどうにも時間と手間がかかりすぎて採用には至らなかった。結果的に自然素材にこだわるという弊社のラケット製作方針が明確になった、それがダズリングストレンジャーだった。ダズリングストレンジャーは少数生産ということもあり、即日完売となった。

ダズリングストレンジャー販売後には、再販や後継機の販売の要望を多くいただいた。また販売元であるWRMさんからも後継機の要望をいただいた。本当にありがたいことである。そんな経緯もあり、ダズリングストレンジャーの後継機である、ウィータム開発に取りかかった。重量は同様にしたまま、板厚を薄くして、球持ちの良さと低弾性を意識した。試行錯誤の末に9枚合板にたどり着いた。上板にはダズリングストレンジャーと同様の高級銘木チークを採用。そして肝となる9枚合板の中芯は、創業前に購入した木材のデッドストックの一部を使用している。とても良い乾き具合で、中芯にするのはもったいないくらい木目の綺麗な木材である。また、ダズリングストレンジャーと同様にインレイも採用した。意外にも手こずったのは刻印デザインであり、カーブラインシリーズ史上最も多くの没デザインを生み出した。

以上がウィータム開発についての顛末である。

さて、ここで養老孟子著「ものがわかるということ」(祥伝社)より一部を引用したい。

「・・・反復練習がなければ、本当の個性なんてわからないのも事実です。だから教育だって反復練習で基礎学力をつけることは大切です。・・・泳ぎ方の教科書を読んだからって、泳げるようにはなりません。じゃあ一度プールに入ったら、泳げるか。無理でしょう。三味線に一回触ったって、三味線が弾けるようにはなりません。人生諸事万端、すべて学ぶ基本は同じです。反復練習しかありません。」

WINGSPANのカーブラインシリーズは販売開始以来、皆様に好評をもって受け入れていただいていることを実感する。そのため、ありがたいことに卓球ラケットを反復して製作できている。この先には「卓球ラケット製作がわかるということ」が待っているはずだ。